所蔵史料目録データベース
≪解題≫
【史料種別】
特殊蒐書
【蒐書名】
神野志隆光氏寄贈史料
【解題】
  本史料群は、神野志隆光(こうのし たかみつ)氏が研究のために蒐集した江戸時代から明治期に刊行された『年代記』関係の版本から成っており、2017年同氏により寄贈された。
 東京大学名誉教授 神野志隆光氏(1946―  )は、『古事記』・『日本書紀』研究で知られる日本文学者で本学教養学部に1986年から2010年まで在籍されていた。
 神野志氏の本史料群を用いた研究成果としては、「その後の日本書紀―「年代記」の展開」があり、『日本書紀』の現代にいたるまでの受容の歴史が『年代記』をとおして考察されている。
 上記論文の要旨を一部抜粋すると、神野志氏は「テキストの実際にそくしていえば、『日本書紀』そのものにかわって、それを再構成したもの(「年代記」類)がその役をはたしてきたのであった。平安時代以降多様な「年代記」類がつくられ、江戸時代には出版によって流布された。それが「古代」の「常識」を形成していたのであった。実用化といってもよいが、そうした展開の全体が、七二〇年の成立から現在にいたる『日本書紀』の「その後」にほかならない。「年代記」の問題を軸としてそうした見わたしが可能となる」と述べられている。氏のこうした視点による『年代記』研究に基づき、氏が自ら蒐集された江戸時代から明治期に刊行された版本類が本史料群なのである。

 本史料群の主だった版本は以下三つに分類することができる。
 ①『日本王代一覧』、『大日本國帝王年代目録(和漢合運図)』、『新編和漢歴代帝王備考』などは、神野志氏の「江戸時代には、「年代記」類がきわめて多様なかたちで出版される。実用性をさらにくわえたものが庶民向けにも出版されて、ひろく流布し、それによって庶民にまで「歴史」の知識が浸透していった。そのなかに『日本書紀』は生きていたといわなければならない」という問題意識で蒐集された版本類である。
 ②神野志氏は「降って江戸時代の末になると、「重宝記」とよばれる類、『雑書』のなかに組み込まれたものや、「雑書」と称されたものとあわせた―「雑書」と「年代重宝記」とが表裏をなす―一枚物のごときまで、大きさも小本から三ツ切(手帳サイズ)の掌中版まで、じつにさまざまなかたちで「年代記」類が流布してゆく」と述べており、掌中本、横本と言われる手帳サイズの版本が庶民の歴史認識に大きな役割を果たしたことを指摘された。本史料群の『掌中増補 和漢年代記集成』、『改正増補 和漢年代記集成』、『掌中年代重宝記』などはこの研究視点で蒐集されたのである。
 ③神野志氏は前近代のみではなく明治期以降の版本類である『内国史略』、『明治新刻 国史略』、『日本史畧』、『稿本国史眼』なども蒐集された。とくに『稿本国史眼』は、重野安繹・久米邦武・星野恒により編纂されたが、三者が東京大学史料編纂所の前身である編纂臨時編年史編纂掛に在籍していた明治23年(1880)9月に刊行されたものであり、本所所蔵の特殊蒐書「重野家史料」には『稿本国史眼』刊行に関する多くの史料が含まれている。

 個別の史料は江戸時代以降の版本・印刷物から成っているので、他の研究機関にも所蔵が確認できるが、史料群としては江戸時代から明治期に至るまでの日本の歴史認識の変遷を一覧できることが特徴であるといえよう。
参考文献 神野志隆光「その後の日本書紀―「年代記」の展開」(『京都国文』第24号、2016年12月)
全197冊