所蔵史料目録データベース
≪解題≫
【史料種別】
特殊蒐書
【蒐書名】
原平三関係史料
【解題】
 原(旧姓山崎)平三は、明治41年(1908)4月30日に長野県上田市で生まれ、昭和4年(1929)4月に東京帝国大学文学部国史学科に入学した。昭和8年(1933)3月に同大学を卒業すると4月に文部省維新史料編纂事務局嘱託となり、昭和13年(1938)8月に維新史料編纂官補、昭和16年(1941)3月維新史料編纂官となった。原は昭和19年(1944)6月に東京九段の東京第三部隊に応召入隊し、昭和20年(1945)4月にフィリピンのミンダナオ島ダバオにおいて戦死した。
 本史料群は平成29年(2017)に原平三の長女小見壽氏から寄贈された。史料群の内容は凡そ2分類され、①原平三が生前に執筆した論文の原稿と、論文を執筆するため蒐集した筆写史料。②原が生前に発表した論文をまとめて、小見壽氏が中心になり『幕末洋学史の研究』(平成4年〈1992〉、新人物往来社。平成13年〈2001〉復刻版、私家版)、『天誅組挙兵始末考』(平成23年〈2011〉、新人物往来社)、『原平三追悼文集』(平成4年〈1992〉、私家版)が刊行され、これらの書籍を刊行するために再度蒐集された原の複写論文や新たに依頼した解題等の原稿、刊行に協力した児玉幸多、小西四郎等の研究者とのやり取りの書簡等から成っている。
 原の研究テーマ「幕末洋学史の研究」は、具体的に維新前後の学問関係を中心にした蘭学発達史から蕃書調所の創設、さらに蕃書調所に所属していた市川兼恭や同所の科学と技術部門に関する研究、洋学移入の経路として幕府の英国留学生の派遣や露国留学生等に着目した研究などで構成されている。
 これらの原の研究テーマから本史料群の特徴をあげると、文久2年(1862)蕃書調所に出仕し、パリやウィーンなどで開催された万国博覧会に参加した田中芳男(1838~1916)の明治3年の日記(2冊分、原の筆写)がある。東京大学総合図書館は『捃拾帖』を始め田中芳男文庫として多くの資料を所蔵(昭和6年〈1931〉寄贈)しているが、博物館の祖ともいわれる田中芳男の日記はこれまで存在しないと考えられていた。明治3年と限定された時期のものではあるが田中芳男の具体的動向を知ることができる史料である。
 また、江戸幕府は慶応2年(1866)に14名の留学生をイギリスに派遣した。留学生には後の東京帝国大学総長になる菊池大麓(当時は箕作大六、12歳)もいたが、留学生のなかの1人であった伊東昌之助(岡保義)の慶応3・4年の英国滞在日記も原は筆写しており、慶応2年の英国留学生の動向を知ることができる貴重な史料である。
 また、史学史としては、東京帝国大学文学部国史学科の教授で史料編纂所の所長も務めていた辻善之助の講義ノート「国史概説」2冊も所蔵されている。これらのノートは原の同級生でもあり文部省維新史料編纂事務局の同僚でもあった福山精義(26歳没)が筆写したノートであり、辻善之助の国史学科での具体的な講義内容を知る上でも貴重な史料である。
 なお、本史料群のうち書簡や名簿で住所等が現在でも特定できてしまうものは閲覧不可になっていることをご了承ください。